赤ちゃんの穏やかな寝顔は、親にとって何物にも代えがたい宝物です。
しかし、その静かな眠りの中に、年間55人（令和6年）もの赤ちゃんの命を奪う「見えない脅威」が潜んでいることを、私たちは知らなければなりません。
乳幼児突然死症候群（SIDS）と、睡眠中の窒息事故。
これらは遠いどこかのニュースではなく、あなたの、私の、すぐ隣で起こりうる現実です。
この記事は、公的な情報と、実際に我が子を失ったご遺族の悲痛な声をもとに、二度と悲劇を繰り返さないための「死なせない教科書」です。
第1部：国が警鐘を鳴らす「睡眠中の死」の2大要因
赤ちゃんの睡眠中の死には、大きく分けて2つの原因があります。この違いを理解することが、対策の第一歩です。
1. 乳幼児突然死症候群（SIDS）
何の予兆や既往歴もないまま乳幼児が死に至る原因のわからない病気で、窒息などの事故とは異なります。(出典：こども家庭庁)
SIDSは「病気」であり、直接の予防法は確立されていません。しかし、発症リスクを下げられることが研究でわかっています。
2. 睡眠中の窒息事故
こちらは、柔らかい寝具に顔が埋まる、掛け布団が顔にかかるなど、物理的な原因で呼吸ができなくなる「事故」です。これは、環境を整えることで防ぐことができます。
これからお伝えする対策は、このSIDSのリスクを下げ、同時に窒息事故を防ぐための、最も重要で基本的なルールです。
第2部：SIDSのリスクを低減する「３つの約束」
こども家庭庁は、SIDSの発症リスクを下げるために、以下の3点を強く推奨しています。
- 【最重要】1歳までは「あおむけ」で寝かせる
うつぶせ寝は、あおむけ寝に比べてSIDSの発症率が高いことがわかっています。赤ちゃんの顔が見えるあおむけで寝かせましょう。これは、吐き戻しによる窒息を防ぐ上でも有効です。 - できるだけ母乳で育てる
母乳育児の赤ちゃんの方がSIDSの発生率が低いと報告されています。もちろん、様々な事情で完全母乳が難しい場合もあります。無理のない範囲で、を心がけましょう。 - たばこをやめる
両親の喫煙はSIDSの大きな危険因子です。妊娠中の母親はもちろん、家族の「受動喫煙」もリスクを高めます。これを機に、家族全員で禁煙に取り組みましょう。
第3部：窒息事故を100%防ぐ「睡眠環境５つのルール」
「まさか、こんなもので」が事故に繋がります。今すぐ、赤ちゃんの寝床を確認してください。
- 寝具は「硬く」「平ら」なものを使う
ふかふかのベビー布団、柔らかいマットレスは赤ちゃんの顔が埋まり、窒息の原因になります。体が沈み込まない、硬めのベビー用マットレスを選びましょう。 - 掛け布団は使わない
軽い掛け布団でも、赤ちゃんの顔にかかれば呼吸を妨げます。温度調整は、エアコンと「スリーパー（着る毛布）」で行うのが最も安全です。 - ベッドには何も置かない
可愛いぬいぐるみ、よだれ拭きのタオル、ベッドガード…。これら全てが窒息のリスクになります。赤ちゃんの寝床に必要なのは、硬いマットレスと、体にフィットしたシーツだけです。 - ベビーベッドは安全基準（PSC・SGマーク）を満たしたものを選ぶ
ベッドの柵に頭が挟まる事故も起きています。国の安全基準を満たした製品を、説明書通りに正しく使いましょう。 - 「添い寝」の危険性を知る
大人の体で赤ちゃんを圧迫したり、大人の寝具で窒息させたりする危険があります。特に、親が飲酒した場合や、睡眠薬を飲んだ場合の添い寝は絶対にやめてください。安全が確保されたベビーベッドで寝かせるのが原則です。
第4部：【事例】「安全なはず」の保育施設で、なぜ娘は死んだのか
上記の対策は、家庭だけでなく、子どもを預かる全ての施設で徹底されるべきルールです。しかし、現実はそうではありません。
「なんで…なんでしか出てこなかった」生後５か月のわが子 認可外保育施設へ預けた数時間後に「うつぶせ死」
去年７月、生後５か月の心都ちゃんが保育施設でうつぶせの状態で死亡しているのが見つかった。母親の心さんは言う。「川に連れて行く方が危険かなと思って。ちゃんとした保育園で預かってくれるところがあったら、そっちの方が安全かなって」
しかし、その「安全なはず」の場所で悲劇は起きた。この日、施設にいた保育士は代表１人だけ。預かっていた子どもは４人。心都ちゃんは別の部屋のベビーベッドで一人寝かされ、約３０分後にうつぶせで呼吸が止まっているのを発見された。
国の基準では保育士は最低２人必要だったが、この施設は過去３年連続で人員不足を市から指導されていた。しかし、「できる限り改善する」と書面で回答するだけで、改善されないまま運営は続けられていた。
父親の隆幸さんは言う。「改善していなくて営業できていなかったら僕らも預けることはなかった。市の方も、できているのがわかってから許可を出してほしかった」
(出典：MBSニュース特集 2024/10/3)
このご両親の言葉は、全ての親の心の叫びです。
母親は、娘の安全を一番に考えて「保育園」という選択をしました。誰も悪くないはずなのに、なぜ、命は失われてしまったのか。
この痛ましい事故から私たちが学ぶべきは、「預ける側の私たちも、知識という武器で我が子を守らなければならない」という厳しい現実です。
【最重要】予防策：悲劇を繰り返さないための「施設選びチェックリスト」
我が子を預ける前に、必ず以下の点を確認してください。面倒だと思わないでください。この一手間が、子どもの命を救います。
- □ 人数は足りていますか？
見学時に、子どもの数に対する保育士の人数を確認しましょう。（0歳児3人に対し保育士1人が基準）基準ギリギリではなく、余裕のある人員配置かどうかが重要です。 - □ 睡眠チェックはどうしていますか？
「5分おきに呼吸を確認しています」「仰向けで寝かせ、顔色もチェックしています」など、具体的な方法を質問し、記録用紙などを見せてもらいましょう。「ちゃんと見てます」という曖昧な返答の施設は要注意です。 - □ 寝具の環境は安全ですか？
赤ちゃんが寝る場所を見せてもらいましょう。硬いマットレスか？周りに余計な物はないか？この記事で学んだ「安全な環境」が徹底されているか、自分の目で確かめてください。 - □ 認可施設ですか？認可外ですか？
認可外が全て危険なわけではありませんが、認可を受けている施設の方が、行政のチェックが厳しく、基準を満たしている可能性が高いのは事実です。認可外の場合は、なぜ認可外なのか、運営方針などをより詳しく聞く必要があります。 - □ 直感を信じていますか？
もし見学時に、保育士が忙しすぎる、園内が整理整頓されていない、質問に真摯に答えてくれないなど、少しでも「違和感」を感じたら、その直感を信じてください。 他の施設を探す勇気を持ちましょう。
静かな寝息は、当たり前ではありません。
一つの知識が、一つの確認が、守れる命があります。
この記事が、あなたとあなたの大切な赤ちゃんの、当たり前の明日を守る盾となることを、心から願っています。
コメント